「バイトって、いつから言うようになったんだろう?」。気になって調べはじめると、意外と答えにたどり着けないものです。辞書を引けば「アルバイトの略」とは書いてある。けれど、いつ、誰が言いはじめたのかまではなかなか分かりません。

こぼれことばでは、言葉の由来と、こぼれた形が独立して使われた時期を、出典をもとに調べています。その手順と、調べるときにつまずきやすい点を、実際に掲載している言葉を例に紹介します。

1. まず辞書で「何からこぼれたか」を確かめる

バイト:二つの辞書が同じ説明をしている

  1. 労働・研究(Arbeit)
  2. 学業のかたわらの仕事(アルバイト)
  3. 「バイト」が独立
  4. 短時間・臨時の仕事全般

最初に引くのは国語辞典です。デジタル大辞泉と精選版 日本国語大辞典は、どちらも「バイト」を「アルバイト」の略としています。複数の辞書の説明がそろっていれば、由来はかなり確かだと言えます。

お冷:辞書によって説明が分かれる

  1. 女房詞「おひやし」(水)
  2. 「おひや」が独立
  3. 丁寧な言い方として一般に広がる
  4. 飲食店で出される水

ところが、辞書どうしで説明が食い違うこともあります。精選版 日本国語大辞典は「おひや」を女房詞「おひやし」の略とし、デジタル大辞泉は「冷や」を「冷や水」の略として、その例に「お冷や」を挙げています。こういうときは、どちらか一方に決めつけず、両方の説を並べて書きます。「お冷」の記事の信頼度が「諸説あり」になっているのはそのためです。

2. 「初出の実例」を見る。ただし、どの意味の初出かに注意

精選版 日本国語大辞典は、多くの言葉に「初出の実例」として、その意味で使われた古い文献を載せています。成立時期を調べるときの、いちばん頼りになる手がかりです。

「バイト」の初出の実例として挙がっているのは、三浦朱門『セルロイドの塔』(1959年)の「スポーツ、バイト〈略〉そしていくらかの勉強に関することに至るまで」。学生生活の文脈で、すでに「バイト」が単独で使われていたことが分かります。

クラシック:言葉の初出と、こぼれた意味の初出は別

  1. 古典・名作
  2. クラシック音楽
  3. 「クラシック」が独立
  4. 西洋の芸術音楽というジャンル

気をつけたいのは、ひとつの言葉に複数の意味がある場合です。同じ辞典は、古典を意味する「クラシック」の初出に森鴎外『文海の藻屑』(1890年)を、音楽を指す「クラシック」の初出に高見順『この神のへど』(1953年)を挙げています。「クラシック」という言葉自体は明治にはあっても、音楽のジャンルとしてこぼれた時期を知りたいなら、見るべきは後者です。

3. 初出が見つからなければ「確認できていない」と書く

キロ・ギガ:誰もが使うのに、いつからかは分からない

  1. 接頭語(1000倍)
  2. キログラム/キロメートル
  3. 「キロ」が独立
  4. 重さ・距離そのもの

「キロ」は、接頭語としての初出の実例に久米邦武『米欧回覧実記』(1877年)が挙げられています。しかし、「キログラム」「キロメートル」の略として単独で使われた初出は示されていません。「ギガ」も、「64ギガ」のような言い方の初出は確認できていません。

こうした場合、もっともらしい年を推測で書くことはせず、「現時点で確認できていない」と書きます。掲載している61語のうち、こぼれた時期を出典で確かめられたのは26語だけです。こぼれた年代から探すには、その26語だけを載せています。

また、初出の実例は「その時点ですでに使われていた」ことを示すだけで、その年に生まれたことまでは意味しません。実際には、記録に残るより前から話し言葉として使われていた可能性があります。

4. 「こぼれた順序」を疑う

ジュニア:芸名から切り出されたのではなかった

  1. junior(年少者)
  2. 漫画『キャプテン』の「ジュニア」
  3. 愛称「ジュニア」
  4. 芸名 千原ジュニア(2005年)

「千原ジュニア」の「ジュニア」は、芸名の後半がこぼれた呼び名に見えます。しかし経歴をたどると、千原兄弟としては本名の千原浩史名義でデビューしており、「ジュニア」は愛称でした。芸名を「千原ジュニア」に改めたのは2005年です。先にあった愛称が芸名に取り込まれたのであって、順序は逆でした。

短い形のほうが長い形から生まれたとは限りません。いつ、どちらの形が先に記録されているかを確かめると、見た目とは違う経緯が見えてくることがあります。

5. 外来語は、元の言語の語源辞典までさかのぼる

マイル:日本語の辞書だけでは足りない

  1. 千の複歩(古代ローマの距離)
  2. 「milia」が独立
  3. 英語の距離の単位 mile
  4. 飛んだ距離に応じてたまるマイル
  5. 航空会社のポイント

外国語から入った言葉は、元の言語の中ですでにこぼれていることがあります。「マイル」について、日本大百科全書はラテン語の「ミリア・パッスス(千の複歩)」の「ミリア」がマイルになったと説明しています。英語の語源辞典である Online Etymology Dictionary は、「milia」がゲルマン語に入ったときに単数の名詞と誤解され、古英語の「mil」になったと説明しています。一方で、「passuum」が落ちた時期は確認できていません。

確かさを書き分ける

調べた結果には、どうしても確かさの差が出ます。こぼれことばでは、各記事に信頼度を表示しています。現在の内訳は「確実」32語、「有力」27語、「要検証」1語、「諸説あり」1語です。辞書どうしの説明がそろい、出典で裏付けられるものは「確実」、説が分かれるものは「諸説あり」というように、分かっていることと推測を分けて書くようにしています。

各記事の末尾には、参照した辞書・資料の一覧を載せています。調べ方の考え方は「こぼれことばとは」の「掲載の基準」でも説明しています。